カンブリア宮殿「“はかる”と“食べる”でニッポンを健康に!タニタの新戦略」を見て
非常に興味深く番組を見た。村上龍さんも小池栄子さんも好きで、この番組も大好きだ。そこに、兄である、現在の代表取締役社長谷田千里が出演した訳だ。「タニタの経営」を僕自身説明する際には、父である「谷田大輔」の成功モデルをお伝えしていて、ほとんど「谷田千里」を分析したりした語ることはない。
今回は創業家の一員として、また株主の一人として、そして家族の一人として、この番組でのやり取りを書いていこうと思った。それが谷田千里という経営者をサポートすることにもつながると思ったし、タニタという会社をもっといい会社にすることにもなると思ったからだ。また自分自身が、新たな一歩を進むための記録として。
◎谷田千里の特色 〜環境・行動レベルの話が多い〜
人間の意識のレベルをロバート・ディルツ氏は6段階に分けているのだが、信念や価値観といった「私が大切にしているもの」を語るよりも、環境・行動レベルの「製品」とか「何をしたのか」という事を語るが多い。「社長は自らが営業マン」という趣旨を本人が言っている通り、一般的な営業マンとして「製品」をプレゼンテーションしているように見えた。「製品」を大切にしているというメッセージが伝わるのが良い点。更にで言えば、これは何を大切にして作られたのか? この製品によってどんな世界を作りたいのか?というビジョンが語れると、もっともっと人は動くしファンが増えるだろう。
◎谷田千里の特色 〜時間軸は現在〜
時間軸というのは、それぞれの人が固有に持っているもので、自然と焦点が当たりやすかったり、意識が向きやすい時間軸がある。過去・現在・未来のどこに意識が向きやすいかのお話だ。そして、谷田千里の時間軸は基本的に「現在(近い未来)」に焦点が当たっている事が多い。従って、「未来」と「過去」のタニタを語るというのはそんなに得意な分野ではない。余談だが、谷田大輔は、非常にタイムラインが長くて、「未来」を語るのが好きな人間である。どちらが良いとか、悪いではなく、人間の特色だ。ただ、もちろん時代によって、組織によって必要となる特色は変わると僕は思う。また自分自身がどんな時間軸が得意なのかを知っているといいだろう。
「現在」に集中するというのは、経営において、そして人間が現代を生きる上で、大切な要素になっている。Googleが「マインドフルネス」を志向した経営をしているとも言われているが、これは「今を大切に生きる」ということと私は理解している。現代社会は情報過多で、過去のことや未来のこと、そして今その場所にいない人のことまで、雑多に思い浮かべ、目の前の出来事や人に対して意識がいかなくなるとも言われている。その対極として、「現在」に集中するのは優れた効果もあるだろう。
一方で、当然ながら「過去」を語る時に、課題も出る。例えば、タニタ内に社員食堂ができた当初のことを振返り、番組内で
「(当初の社員食堂は)なんじゃこれは、という食事でした」
とコメントしている。「過去」にあまり意識が向かないため、無意識に発言した言葉だったと思う。そもそもタニタ内に社員食堂ができた時に、入社しておらず、入社後もほとんど関わらずにアメリカに赴任している。テレビで取り上げられた「低カロリーの鶏のひき肉を使用」「ニンニク、ショウガで味付けし塩分を削減」「噛みごたえ」などのポイントは谷田大輔の経営時に既にやられていた事なのは、ベテラン社員であれば周知の事実である。1990年に作られたベストウェイトセンターの9年間のノウハウが活かされ、そして更に言えば社員食堂を1999年にスタートして、10年間やり続けたからこそ、NHKに取り上げて頂けて書籍が出版された。そんなタニタの真剣でひたむきな長期の努力を見れないのは、少し残念なことだ。なぜなら、「タニタ」という会社は、より良い生活習慣を身につけて頂く時に、「続ける」という価値を大切にするからだ。ライザップのように、数カ月間で結果を出すということも大切だが、タニタ社が追い求めるべきは、そこだけではない。本当に良い生活習慣が身につき、それが「当り前」になることを僕達は追い求めている。だから、社員食堂自体も、「インスタント」に見せてはいけないと僕は思う。実際に積み重ねた努力をきちんと見つめて行くことが、ホンモノの「社員食堂」の在り方だと僕は思う。これから「未来」において、同様の革新的な事業を創るために、「過去」の取り組みを理解しておくことは大切だ。別に「過去」に生きる必要はないし、過去の成功体験にしがみつく必要もない。ただ、過去の成功体験を「活かす」必要はある。どこかに必ず「活かせる」ポイントがあり、そこまで捨ててしまっては私達が持つ強みを活かしきれないのではないか。たくさんの可能性をここに秘めている。
◎谷田千里の特色 〜問題に焦点が当たる〜
人間は「目標(アウトカム)」を語るのが好きな人と、「問題」に焦点が当たりやすい人の2つに分けることもできる。これまた良い悪いではない。コンサルタントと言えば「問題解決」という言葉もあるが、彼自身もともと「問題」に目が向きやすい。また、そもそも人間は「問題」に目が向きやすくできている。その意味で、「問題」にフォーカスするのは自然で、効果的でもあるかもしれない。一方で、「問題」にフォーカスしてばかりだと、健康を害するリスクを伴う。父親である谷田大輔との「衝突」みたいな話をしたが、それは親子関係では当然のこと。そもそも腰を痛めて家事手伝いだった彼をコンサルタントの職に就かせて、そして現在まで引き上げた父への「感謝」や「良い事」にもっと焦点が当たると、発言として、また一人の人間としてバランスの取れた精神状態になるのではないかと私は思った。
書いて良かったこと。兄貴は僕のシャドー(嫌いな自分の要素を見せてくれる人)だったんだなと思った。そう思った時に、ふと今までにはない兄貴への感謝の気持ちが芽生えた。兄貴ありがとう。経営を若くして引き受けてくれたこと。きっと今タニタは大変な状況だし、これからももっと経営環境は厳しくなる。同族会社は3代目で潰れる、みたいにも言われる。僕達の役割は、次の世代に、健康的なタニタ社を渡していく事だと最近思う。新しい時代にふさわしく、「谷田」の姓であってもなくても関係ない。タニタ社の発展を、一株主として、創業一族として、そして家族として心から願っている。
追伸:千里さん、勝手に分析してごめんね。弟より